朝の散歩
週末の午前、少し肌寒い空気が街を包んでいた。
俺――しぃは、ゆっくりとシャワーを浴びたあと、スニーカーを履いて外に出た。
ここ数日、師匠の課題「寝る1時間前にスマホを見ない」を実践している。
スマホを置けば、その時間は確かに空く。だが――
「寝つけない。結局ベッドで考え事して、睡眠不足になるだけじゃないか。」
朝もだるく、頭は重い。
エネルギーは溜まってきた気がするのに、生活リズムがバラバラで力を活かしきれていない感覚があった。
「体を動かせば眠気も取れるし、何かヒントが浮かぶかもしれない。」
そんな気分転換と問題解決のために、俺は朝の散歩に出た。
小さな看板
歩きながら、商店街の外れを抜けたところで、小さな立て看板が目に入った。
Organic Cafe
Gluten-Free / Herbal Tea
手書きのメニューに、季節野菜やハーブティーの名前が並んでいる。
店先には鉢植えや木製のベンチが置かれ、陽の光を浴びて柔らかく輝いていた。
何となく、足が止まった。
「…少し入ってみるか。」
常連の女性
店内は木のぬくもりがあり、窓から差し込む自然光が心地いい。
カウンターの奥には緑の植物、棚には無農薬の茶葉や手作りの瓶詰めが並んでいる。
カウンター席に座る一人の女性が、文庫本を開いていた。
ショートボブの髪がやわらかく揺れ、淡いピンク色のカーディガンが優しい雰囲気をまとわせている。
口元には穏やかな笑みが浮かび、誰と話すでもなく、店の空気になじんでいる。
それでいて、背筋は自然に伸び、どこか芯の強さも感じさせた。
「おすすめブレンドティー、いつものにして」
店員との軽やかなやり取りから、常連であることがすぐに分かった。
会話のきっかけ
メニューを開き、俺は少し迷った。
どれも見慣れない名前ばかりだ。
すると、隣から声がした。
「ここの食事はオーガニックやグルテンフリーにこだわってて、初めてならこの季節限定プレートがおすすめだよ。野菜も全部無農薬だし、体が軽くなる感じがするの。」
顔を向けると、先ほどの女性がにこやかにこちらを見ていた。
「じゃあ…それにしてみます。」
価値観の共有

食事を待つ間、自然と会話が続いた。
彼女の名前は「みなも」。
普段からSNSやスマホの使用時間を制限し、加工食品を避け、軽い運動を日課にしているという。
「そういえば、最近なにか新しいこと始めたの?」
みなもにそう聞かれ、俺は少し迷った。
あえて話すべきことじゃないかもしれない。でも、初めて会った人だからこそ、変に構えず話せる気がした。
「…実は、オナ禁ってやつをしててさ」
声を落として言うと、みなもは目を丸くして、それからふっと笑った。
「男性の禁欲って、みんなしてるわけじゃないよね。
でも、夢のためにやってるってすごいと思う」
夢――。自分でもまだ形になっていないその言葉が、心の奥で静かに響いた。
俺は少し恥ずかしそうに、師匠との出会いや、なんとなくでも自分を変えたくて始めたことを話した。
みなもは興味深そうに、時折うなずきながら聞いている。
「生活を整えると、そういう努力ももっと活きるんだよ」
柔らかな笑顔に、不思議と背中を押される気がした。
みなもからのアドバイス
彼女は、睡眠の質を上げるためのちょっとしたコツを教えてくれた。
- 就寝1時間前は暗めの照明にする
- カフェインは午後2時以降控える
- 寝る前に呼吸を整えるルーティンを作る
「エネルギーって、溜めるだけじゃなく、ちゃんと循環させないとね。」
別れと余韻
食事を終え、店を出るとき、みなもは笑顔で言った。
「またこのカフェで会えるかもね。」
俺は歩きながら考えていた。
「整える生活…これも禁欲を支える力かもしれない。」
エネルギーを溜めるだけじゃなく、活かす環境を作る。
それが、次のステップなのかもしれない。
次回予告
次回、第3話「玲花登場」
禁欲の試練となる出会いが訪れる──。

