第1話|性エネルギーを変革の力へ──師匠との出会い

欲望ノ羅針盤 第1話のアイキャッチ画像。師匠としぃが夜景を背景に向かい合い、性エネルギーを変革の力にする物語の始まりを描く。

静かな夜の喫茶店にて

夜9時を過ぎた駅前の雑踏から一本入った路地にある喫茶店は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
木製のテーブル、柔らかなオレンジ色の照明、奥のスピーカーからは低めのジャズが流れている。

俺――しぃは、スマホを横に置き、アイスコーヒーをかき混ぜていた。
数分前まで、SNSのタイムラインをだらだらとスクロールし、性欲を煽るような動画や、意味もなく刺激の強い動画を見て時間を潰していた。
仕事のストレスも、溜まった性欲も、こうやって「見てる間だけ忘れる」ことで、なんとかやり過ごしてきた。
もちろん、そんなやり方が何も生まないことぐらい分かっている。それでも、今日もまた同じことを繰り返していた。


師匠との出会い

「君、その顔。何かを変えたい時の顔だね。」

突然、低く響く声がして顔を上げると、50代後半と思しき男性が立っていた。
端正な顔立ちだが、目元には旅人のような柔らかさと、経営者特有の鋭さが混ざっている。
派手すぎないシルバーのタイピン、古い海外ブランドの腕時計。
全身から「遊びも仕事も知っている」空気を漂わせていた。

後で聞いた話だが、この時、師匠は俺の様子を見て直感したという。
性欲やストレスに振り回され、エネルギーを無駄にしている――それは、かつての自分と同じ姿だった。
ただ、俺にはどこか“変われる可能性”を感じた。それでわざわざ席まで来て、話しかけてきたのだという。


初対面の告白

夜の喫茶店で、師匠が禁欲の哲学を語り、しぃが耳を傾けているアニメ調イラスト
静かな喫茶店で、しぃは師匠から「禁欲は我慢じゃない」と語りかけられる。

「…正直、そうかもしれません。」
気づけば、俺は初対面の相手に、自分の日々を話していた。

「仕事で疲れて、家に帰ったらスマホ。
 気づいたら夜中になって…そのまま寝て、朝起きて、また仕事。
 やめたいって思っても、結局、同じことを繰り返してしまうんです。」

師匠はうなずきながら、静かにカップを口に運んだ。
否定も説教もせず、ただ聞いている――その態度が、妙に安心感をくれた。


「禁欲って、我慢じゃないよ。
 欲望を押し殺すんじゃなくて、使う場所を変えるんだ。」

師匠はゆっくりとカップを置き、続けた。

「性エネルギーも、集中力も、結局は同じ源だ。
 夜中までスマホをいじって疲れてるとき、そのエネルギーは全部垂れ流しになってる。
 それを“溜めて”“投資”する。そうすると、人生が加速する。」

その言葉は、頭の奥でずっと鳴っていた警鐘を、はっきりと鳴り響かせた。


今日からできること

師匠は笑って、テーブルのナプキンに何かを書いた。
そこにあったのは、たった一行。

「今日から寝る1時間前、スマホを見ない」

「まずはこれだ。
 バカにしちゃいけない。エネルギーは、小さな習慣から生まれ変わる。」


謎のノート

「それから――君、本気で変わりたいなら、記録をつけろ。」

師匠は、革表紙のノートを取り出し、俺に見せた。
日付ごとの記録と、短いメモ、目標の数字が整然と並んでいる。

「これは俺の“Retain-NOTE”だ。
 欲望も習慣も、書き出せば制御できる。」

そのページを見つめながら、俺は確信していた。
この出会いは、偶然なんかじゃない。


次回予告

次回、第2話「みなも登場」
生活を整える女性との出会いが、禁欲を支える新たな視点をもたらす。

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